非固定的賃金の新設による月額変更届と、起算月の考え方

社会保険や労務のお話

少し硬い表現ですが、最初に結論を言っておきます。

非固定的賃金が新設された場合、「給与体系の変更」にあたるので、「固定的賃金の変動があった」として月額変更の契機とする
新設月以後の継続した3ヶ月間のどこかで支給されていれば、月額変更の対象となる(2等級以上・17日以上であれば)。
新設月にその非固定的賃金が支給されなかった場合であっても、新設月を1ヶ月目としてカウントすることに注意。

非固定的賃金(変動する手当)の新設

「非固定的賃金の新設」とタイトルにしましたが、具体的に言うと、今回ある会社さんで、新たに皆勤手当を導入することになりました。

皆勤手当:1ヶ月の賃金計算期間において無遅刻・無欠勤の場合に、月額10,000円を支給する。
     年次有給休暇を取得したときは、出勤したものとみなす。

と就業規則に追加。

これに基づき、皆勤手当を新設した場合、次の給与から、無遅刻・無欠勤で手当がつく人と、遅刻・欠勤をして手当がつかない人とに分かれますよね。

手当が追加されたから社会保険の月額変更に該当するのかな?
でも月によって変動するから残業手当と同じ扱いで月額変更にはならないのかな?
とりあえず手当がつかなかった人は、月額変更にはならないよね。って考えてしまいませんか。
少なくとも私は最初そう思いました。でも違ったのですよね。

他に非固定的賃金とされる手当は、食事代の補助として出る食事手当や、売上高に応じて出る業績手当、勤務実績による宿日直手当などがあるかと。

月額変更の要件「給与体系の変更」

月額変更届(随時改定)の基本から。

社会保険の被保険者の報酬が、昇給や降給等の固定的賃金の変動に伴って大幅に変わったときは、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定します。

月額変更届(随時改定)の要件
下記3つ全てを満たす場合に改定を行います。

  1. 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった(※1)。
  2. 変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
  3. 3ヶ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。

今回のポイントは1番目の要件「昇給または降給等により固定的賃金に変動があった(※1)」。

この一文にはいろいろな意味が含まれています。

以下、日本年金機構の随時改定(月額変更届)の説明ページに書かれている概要。

(※1)固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものをいいますが、その変動には、次のような場合が考えられます。

  • 昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
  • 給与体系の変更(日給から月給への変更等)
  • 日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更
  • 請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
  • 住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、支給額の変更

基本給が上がった、役職手当がついた、通勤手当が変わった、パートさんの時給単価が変わった、所定労働時間が変わった等は、わかりやすい例ですよね。

赤字部分の「給与体系の変更」とは、
時給制から月給制に変わった時とか、新たな手当が新設・廃止された時など

さきほどの皆勤手当の新設はこの給与体系の変更にあたります。

皆勤手当自体は、毎月必ず支給されるとは限らないので、固定的賃金ではなく非固定的賃金になりますが、
固定・非固定に関わらず手当が新たに導入されるということは、賃金体系の仕組みが変わったとされるのです。

給与体系の変更月を変動月とする

非固定的賃金の新設や廃止は、「給与体系の変更」として「固定的賃金に変動があった」とみて、月額変更のフラグを立てるわけですが、さらにもう一つ注意点があります。

新設された月から3ヶ月の間のどこか、その非固定的賃金の支払いがあった場合に、月額変更の対象となるということです。

つまり、給与体系の変更月今回は新設月)に、その非固定的賃金が実際に支給されたかどうかは関係ないのです。

変更月を起算とした3ヶ月間の報酬額を見て、以前の標準報酬月額から2等級以上の差が出ていれば、月額変更となります。

日本年金機構の「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」を読んでみましょう。

出典:厚生労働省「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について(令和4年9月5日事務連絡)より一部抜粋

通常、月額変更の変動月は、固定的賃金の変動等があった月とされていますが、給与体系の変更を契機とする場合の変動月は、手当の支払いの有無にかかわらず、新設された月としています。

9月に皆勤手当を新設した場合、9・10・11月のどこかで皆勤手当が支払われていれば、3ヶ月の報酬金額を平均し、これまでの標準報酬月額と比較して2等級以上の差が生じていると、12月改定として月額変更届を提出することになります。

そして、例2のように、非固定的賃金の新設以後の3ヶ月間(9・10・11月)に支給実績が生じなければ、随時改定の対象とはならないことになります。

まとめ

 この後、例えば12月に皆勤手当を支給、1月は支給なし、2月に支給、等と変動したからと言って、その都度月額変更の対象にはなりません。皆勤手当は非固定的賃金ですからね。

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