同月得喪時の厚生年金保険料、徴収と還付について

社会保険や労務のお話

こんにちは、大阪市の女性社労士 小森ゆかりです。

給与計算をしていて、入社した月にすぐ退職してしまった従業員がいた場合、社会保険料の控除について迷ったことはありませんか?

入社月に、その資格を喪失することを、同月得喪(どうげつとくそう)と言います。

たとえば3/1入社、3/10退社という、同月内で被保険者資格の取得と喪失が起きたときは、社会保険料(健康保険と厚生年金)について、少しややこしい処理が出てきます。

よくわからずに曖昧なまま、最初で最後の1ヶ月分の給与計算を行ってしまうと、退職後の忘れた頃に、年金事務所から通知が届いてびっくりするかもしれません。

社会保険料は、資格取得日の属する月から、喪失日の属する月の前月分まで

まず基本として、
社会保険料(健康保険と厚生年金)は日割り計算という概念がなく、月単位で計算しますので、
資格取得日の属する月の保険料から、資格喪失日(退職日の翌日)が属する月の前月分の保険料までを従業員の給与から控除し、日本年金機構に納付することになっています。

なので、
月の途中に入社した場合はその月1ヶ月分の保険料を徴収し、
月の途中に退職した場合は、前月分までの保険料を徴収します。
(資格喪失した月の分は転職先などで新たな社会保険に入りそちら側で徴収されることになります。)

 (例)3/15入社、5/15退社の場合 → 3月・4月保険料を徴収

【健保の原則】同月得喪の場合、1ヶ月分の保険料を徴収する

ただし今回のように、同月内で取得(入社)と喪失(退職)が起きた場合は、
1ヶ月分の保険料を徴収することになっています。

 (例)3/1入社、3/10退社の場合 → 3月保険料を徴収

3月入社だから、3月保険料がかかるのはいいとして、3/10退職ということは保険料は2月まで?あれ?と混乱しますよね。この場合は、3月の1ヶ月分の保険料がかかってしまいます。

そしてややこしいことに、これには厚生年金にだけ例外があります!

【厚生年金の例外】同月得喪の場合、保険料はいったん徴収しておく

ひとくくりに社会保険料と言っていましたが、内訳は健康保険と厚生年金保険です。

さきほどと同じ例で見てみます。
 (例)3/1入社、3/10退社の場合 

【健康保険の原則】

健康保険料については、繰り返しになりますが、さきほどの原則通り3月分保険料を徴収します。

そして3月中に転職した場合は転職先で、無職のままだった場合は国民健康保険で、さらに1ヶ月分徴収されます。
なので3月は二重払い、というか1ヶ月に2回、それぞれの保険者に健康保険料を支払うことになります。

これは現在の制度上の問題なので、どうしようもありません。

【厚生年金保険の例外】

こちらが例外。二重払いの防止のため、平成27年10月に救済制度ができました。

まずは原則通りにいったん3月分保険料を徴収、
3月中に転職先の厚生年金に加入したことが年金事務所で確認できた場合、3月に前職で徴収した厚生年金保険料だけ後日会社に還付されるという仕組みです。

年金事務所で確認がとれるのに数ヶ月かかるので、それから保険料還付の通知が会社に届き、本人負担分を、会社から従業員に返金していただくことになります。

実務としては、従業員向けのご案内通知を作成・送付して、以前の給与振込先口座に振り込んだりします。

ここで1点注意。全員が全員、還付されるわけではありません。

20歳以上60歳未満の方は、国民年金の強制加入者なので、再就職しない場合でも同月中に国民年金に加入することになり、還付になる可能性が高いです。

一方、還付が生じないのは、20歳未満・60歳以上の方、そして海外に居住する方


退職時に厚生年金保険料を徴収しておくか否かは、会社の裁量により決めることはできますので、この返金の手間が面倒で、最初から厚生年金だけ給与から徴収しないでおく、といった会社さんもあるかもしれません。
でも、もしかしたら上記の理由で返金されない可能性もあるので。そうなると会社が本人負担分とも負担するリスクがあるのです。

なので、いったん徴収しておき、年金事務所から通知がきたら返金する、という流れで、
クライアントさんには「年金事務所から、対象者についての還付通知書が来たら教えてくださいね!またその時にご説明するので!」とご案内するようにしています。

まとめ

同月得喪の場合、社会保険料はいったん控除しておく→年金事務所から還付通知がきたら従業員に返金する、の流れをご理解いただけましたでしょうか。

ちなみに雇用保険は、単純に総支給額に対して保険料率を掛けて控除するので、こういった二重払い等の問題は発生しません。

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